
蕁麻疹(じんましん)
蕁麻疹(じんましん)
蕁麻疹は、かゆみを伴う“みみずばれ”のようなむくみ(膨疹)と赤み(紅斑)が突然出現する疾患です。多くの場合、数時間~24時間以内に個々の発疹はいったん消失するため、あとが残らないのが特徴です。発疹は虫刺されのように円形のものが多い一方、数ミリ程度の小さなものから手のひらを超える大きさのものまでさまざまで、ときには互いにくっついて地図状になることもあります。
いったん消えても場所や時間を変えて繰り返し出現する場合があり、出たり消えたりしながら数日間続く例もあります。一般的には半数以上が1週間以内、多くが1カ月以内に治まりますが、6週間以内におさまるものを「急性蕁麻疹」、6週間以上続くものを「慢性蕁麻疹」と呼びます。
*アトピー性皮膚炎と蕁麻疹の違い
一般的にもよく聞く2つのアレルギー性疾患ですが、アトピー性皮膚炎と蕁麻疹は症状が大きく異なります。
アトピー性皮膚炎では、顔や首、ひじ・ひざの内側などに強いかゆみを伴う湿疹ができ、同じ場所に繰り返し出るために色素沈着や肌のカサカサ・黒ずみが生じやすくなります。一方、蕁麻疹は皮膚が赤く盛り上がる膨疹が突発的に現れますが、数時間から1日以内に消えることが多く、あとに色素沈着などが残りにくい点が大きな違いです。
蕁麻疹が出ると同時に気道や消化管にも浮腫が生じ、胸やのどが苦しくなって呼吸がしづらくなる場合があります。ゼーゼーと音がする、咳が止まらない、嘔吐・腹痛・下痢などを伴うこともあり、さらに悪化すると血圧低下や意識障害を起こすアナフィラキシーショックに陥ることがあります。これは生命を脅かす緊急事態であり、すみやかな受診・救急対応が必要です。
蕁麻疹には1型アレルギーが関与している場合が多いとされています。皮膚にはヒスタミンを含む「肥満細胞」があり、なんらかの刺激でこれが活性化されるとヒスタミンが放出され、皮膚が赤く盛り上がり、かゆみを引き起こします。
特定の食品(例:小麦、エビなど)や薬剤、摩擦・圧迫などの物理的刺激が誘因となることもありますが、実際には70~80%の蕁麻疹で原因物質を特定できない「特発性じんましん」が多いのが現状です。服の締め付けなど機械的な刺激で線状に膨疹ができるタイプもあり、アレルギー以外に造影剤やサバ、タケノコの摂取が誘因になることも知られています。
さらに、小麦製品やエビなど特定の食品を摂取後、すぐに運動することで蕁麻疹や血圧低下、呼吸困難を引き起こすこともあり、注意が必要です(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)。
6週間以上毎日出没するタイプの多くは原因がはっきりしないとされています。
原因が明確でないことも多く、心当たりがない方も多いです。一方、心当たりやエピソードのある方や慢性化した蕁麻疹では検査を行うこともあります。
食品や薬、添加物などによるアレルギーが疑われる場合は、IgE抗体を調べる採血やプリックテスト、皮内テストなどを行うことがあります。また、寒冷・日光・圧迫などの物理的な刺激が疑わしい場合は、実際に同様の刺激を与えて症状が誘発されるかを確認します。これらは強い症状が出る危険を伴うため、必要に応じて連携病院での検査が推奨されます。
細菌感染やかぜを引いた直後に出現する蕁麻疹は、それらが治るとともに自然に改善するケースがほとんどで、特別な検査をしなくても良い場合があります。一方、6週間以上続く特発性じんましんは原因特定が難しいとされ、血液検査をしても必ずしも誘因を見つけられるわけではありません。数値が高くとも、それだけでは原因と断定できないため、確定診断のためには症状に合った追加検査(皮膚テストなど)で最終的に判断する場合もあります。
蕁麻疹の治療は、まず原因と考えられる要素を取り除くことから始まります。たとえば、衣類の締め付けが原因ならば、ゆったりした服装を選ぶなど物理的刺激を減らす工夫をします。アレルギーを起こす食品や薬剤が明確な場合は、それらを避けるのが最善です。より正確な診断や重篤な症状があるときには、総合病院で精査を行います。
原因が特定できない、あるいは避けきれない場合には、抗ヒスタミン薬の内服が基本治療になります。通常量で効果が不十分なときは増量したり、胃潰瘍治療薬などを併用する場合もあります。急性蕁麻疹でも再発や慢性化を防ぐために、1~2週間は症状が落ち着いていても内服を続けることが推奨されます。慢性蕁麻疹であれば、少なくとも2カ月以上は症のない状態を保つことを目標とします。
それでも改善がみられない難治性の蕁麻疹に対しては、抗ロイコトリエン拮抗薬を併用したり、生物学的製剤(ゾレア[オマリズマブ]、デュピクセント[デュピルマブ]など)を使用することもあります。これらの治療は症状や全身状態、血液検査などを総合的に検討したうえで判断します。