
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎
アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。目や耳の周り、顔、首、ひじやひざの裏など、左右対称に特有の湿疹が出ることが多いのが特徴です。乳幼児期に発症するケースが多く、小学生頃までに治まる方も多いですが、一部は思春期以降も症状が続いたり、大人になってから発症する場合もあります。ストレスや妊娠・出産、加齢による皮膚バリア機能の低下が関与して、成人や高齢者でも発症することがあります。
日本皮膚科学会の診断基準では、
のすべてを満たす場合にアトピー性皮膚炎と診断します。原因は一つではなく、遺伝や皮膚のバリア機能異常などの体質的要因と、ダニ・ほこり・細菌・衣服の擦れなどの環境的要因が重なって発症すると考えられています。
生後2カ月頃から頬や額の乾燥が始まり、顔全体に赤みやかゆみが出やすくなります。首や手足のしわ部分にも湿疹ができることがあります。赤ちゃんはまだ自分の手で掻けないため、授乳中にお母さんの体や服に患部をこすりつけて掻く姿が見られることがあります。
2歳頃になると顔の湿疹は減る一方で、肌の乾燥が強くなります。首やひじ・ひざの内側のしわ部分などに皮疹が出やすく、耳の付け根が切れる「耳切れ」がみられることもあります。
上半身全体に湿疹ができ、顔や首、胸や背中の上部などに左右対称に出るのが特徴です。頻繁に掻くことで皮膚が厚くゴワゴワ(苔癬化)したり、かゆい部分が盛り上がる痒疹(ようしん)に進む場合もあります。痒疹になると治療に時間がかかりやすくなるため、早めの対処が大切です。
アトピー性皮膚炎には、「皮膚バリア機能の低下」「アレルギー性炎症」「かゆみ」の3つが深く関わっており、かゆみによる“掻き壊し”がさらにバリア機能を低下させるという悪循環が生じます。
皮膚は本来、外部刺激から体を守り、水分が逃げないようにするバリアの役割があります。しかし、セラミドなどの脂質や水分量が生まれつき少ない方は、このバリアが弱く、刺激を受けやすい状態です。さらに掻き壊しは皮膚を直接傷つけ、バリアを壊してしまうため、アトピー性皮膚炎の悪化要因となります。
家族に喘息や花粉症、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患がある場合、同様の体質(アトピー素因)を持つ可能性が高くなります。IgE抗体が作られやすい体質だと、わずかな刺激でもかゆみ物質が放出されやすく、症状が出やすくなります。
ストレスや不安、緊張はかゆみを増強させる要因となります。子どもは勉強や苦手なことをしている最中、大人は仕事や人間関係によるストレスなどが悪化につながり、試験や大きなイベントを境に症状が変動することも珍しくありません。
ダニやホコリ、花粉、ペットの毛などの環境アレルゲン、化粧品や金属などの接触アレルギー、気温・湿度の変化、飲酒や風邪なども症状に影響を及ぼします。
特徴的な湿疹(左右対称、顔や首、関節の内側など)と強いかゆみを伴い、繰り返しよくなったり悪くなったりする点から、多くの場合は外観で診断が可能です。重症度を把握するために皮疹の範囲や状態を評価するほか、状況によっては血液検査や皮膚テストなどを行い、対策を立てて治療を進めていきます。
アトピー性皮膚炎は適切な治療とスキンケアで症状のコントロールが可能です。良い状態が安定する「寛解(かんかい)」をめざし、再発しにくい肌をつくることが目標となります。特に小児期からのきちんとした治療で、多くの患者さんが良好な状態を維持しやすくなります。
治療の基本は、
の3つです。
ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)、JAK阻害薬などを使って炎症を抑えます。また、かゆみを軽減するために抗ヒスタミン薬の内服も行われます。重症で外用のみでは十分な改善がみられない場合は、免疫抑制剤(シクロスポリンなど)の内服や、生物学的製剤(デュピクセントなど)の皮下注射を検討します。
症状がいったん治まってからも、悪化を防ぐ目的で定期的に外用薬を塗り続ける方法です。週1~2回のステロイド外用を維持したり、副作用の少ない外用薬(プロトピック軟膏、モイゼルト軟膏、コレクチム軟膏など)を併用してコントロールを継続します。
アトピー性皮膚炎の皮膚は水分保持力が弱いため、保湿剤を使ってバリア機能を補うことが欠かせません。
を使い分け、皮膚の乾燥や炎症を予防します。特にモイスチャライザーは正常な発汗を促す作用もあり、アトピー性皮膚炎の方に適しています。一方、白色ワセリンは保護力が高い反面、毛穴が詰まって汗がかきにくくなる場合もあるので、季節や皮膚状態をみながら使いましょう。
また、皮膚を清潔に保つため、入浴は38~40℃程度のぬるめのお湯が推奨されます。石鹸はよく泡立て、ナイロンタオルなどで強くこすらず、手で優しく洗ってください。汗をかいたときも、シャワーなどでこまめに流すのが望ましいです。
爪は短く切り、髪の毛が皮膚に触れすぎないようにするなど、掻き壊しを防ぐ工夫が必要です。部屋の換気や掃除をこまめに行い、ほこりやダニ、花粉を減らすよう心がけましょう。室内の湿度は50%前後を目安に維持すると快適です。
アトピー性皮膚炎は、遺伝や皮膚バリア機能の低下、アレルギー反応、ストレスや生活環境など多様な因子が複合的に関与して発症する慢性炎症性疾患です。かゆみによる掻き壊しがさらにバリア機能を低下させる悪循環を断つには、早めの受診と継続的なケアが重要となります。ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などの薬物療法に加え、保湿中心のスキンケア、生活習慣・環境の見直しを組み合わせることで、症状をコントロールしながら日常生活の質を高めることが期待できます。お困りの症状がある方は、ぜひお早めにご相談ください。